紫陽花の歌

こころ

          萩原朔太郎

こころをばなににたとえん
こころはあじさいの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思い出ばかりはせんなくて

こころはまた夕闇の園生のふきあげ
音なき音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめども
かなしめどもあるかいなしや
ああこのこころをばなににたとえん。

こころは二人の旅びと
されど道づれのたえてものいうことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。