ハドソン川のそば   

                   白石かずこ


 誰から生まれたって?
ベットからさ 固い木のベットから
犬の口から骨付き肉が落ちたように
落ちたようにね
わたしの親は まあるいのさ
月のようにのっぺり
やはり人間の顔してたのさ
人間の匂いがしてたのさ

くらやみの匂いがね
だまってる森の匂いがね

それっきりだよ ニューヨーク
ハドソン川のそば
わたしはたっている
この川と わたしは同じ
流れてる
この川と わたしは同じ
たっている

広すぎてはかれないよね おまえの胸巾
遠すぎてはかれない おまえの記憶

生まれた頃まで さかのぼることないよ
わたしの想い出
行先も今も ただよう胸の中
自分でも はかれないのさ

ハドソン川のそば
ちぢれっ毛の
黒い顔の子 やせて大きい目だよ わたしは

笑うと 泣いているように
顔がかわれて ゆれだすよ

唄うと 腰をくねらせて
世界中が 腰にあるように 踊るんだよ
名前はビリー
すぎた日の名はしらない
わたしの生まれた 空を知らない
なんていう木か 兄弟のハッパがあったか なかったか

わたしの生まれた うまごやを知らない
ワラのベットか 木のとこか

それでも わたしはそだった
果実の頬のように
果物屋の 店先で
買えない果物みてるうち

肉屋の 店先で
切られていく 豚の足をみてるうち

ハドソン川のそば
ひとりで いまはたつ

少しおとなになったわたしかかえ
わたしのグランマー グランパー
いとしい恋人 ハドソン川

わたし ながれていくだろうよ 川と一しょに
わたしの胸の中 太く流れるハドソン川と
わたしの胸の中 わたしと流れるハドソン川と