小さな娘が思ったこと

                                 茨木のり子

ひとの奥さんの肩はなぜあんなに匂うのだろう
木星みたいに
くちなしみたいに

ひとの奥さんの肩にかかる
あの淡い靄(もや)のようなものは
なんだろう?

小さな娘は自分もそれを欲しいと思った
どんなきれいな娘にもない
とても素敵な或るなにか

ちいさな娘がおとなになって
妻になって母になって
ある日不意に気づいてしまう

ひとの奥さんのかたにふりつもる
あのやさしいものは
日々
人を愛してゆくための
    ただの疲労であったと