疎開児童も
茨城のり子
疎開児童もお爺さんになりました
疎開児童もお婆さんになりました
信じられない時の迅さ
飢えて 痩せて 健気だった子らが
乱世を生き抜くのにせいいっぱいで
生んだ子らに躾をかけるのを忘れたか
野放図に放埓に育った二代目は
躾糸の意味さえ解さずにやすやすと三代目を生み かくて
女の孫は 清純の美をかなぐり捨て 踏み抜き
男の孫は 背をまるめゴリラのように歩いている
佳きものへの復元力がないならば
それは精神文化とも呼べず
もし 在るのなら
いまどのあたりで寝ほうけているのだろう
筑摩書房「倚りかからず」より